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押尾学被告:判決要旨(1)主文「被告人を懲役2年6月に処する」(毎日新聞)

最決平成元年12月15日(判例検索システムより)

 世間では有名芸能人が裁かれる初の裁判員裁判として、そして法律を学ぶ者からは保護責任者遺棄致死罪の成否が問題になる事案として、それぞれ注目されていた(であろう)事件の第1審判決が本日言い渡されました。世間の関心が集まったせいか、上記のようにすでに判決要旨も目にすることができます。

 一応刑法を学んでいる身としては、今回の事件では「保護責任者遺棄」と致死、すなわち被害者の死亡との因果関係が認められるかどうかが最も気になる点でした。というのも、この問題については上記のように、被害者である少女に覚せい剤を注射しながら、錯乱状態に陥った被害者をそのままホテルに放置して死亡させた者について、死亡と救急医療を要請しなかった点についての因果関係を認めて保護責任者遺棄「致死」の成立を肯定した著名な最高裁判決があるからです。

 今回の事案も状況としては平成元年決定の事案とよく似ています。しかし、今日付の判決では結果として、救命可能性、被告人が救急を呼ばなかったことと死亡との因果関係が認められず、保護責任者遺棄罪が認められるにとどまりました。

 2つの事案で判断が分かれた理由はどこにあるのか。もちろん、頼りない知識と限られた情報しか持たない一学生の考えることですからあてにはならないですが、すぐに思いつくだけでもいくつかの要因は考えられます。被害者の年齢、覚せい剤とMDMAの性質の違い(違うのかどうかも自分にはよく分かりませんが…)、証人となった医師の証言内容など、立証活動の違い…etc。しかし、あらためて考えてみると、平成元年決定については、ごく簡単な事案と結論を学んだことがあるだけで、詳細な事実関係までは目を通していません。ということで、今回の件を機に、ちょっと調べてみました。

 最高裁決定は原判決の事実認定をもとにその判断を是認する形を取っているので、控訴審判決を読んでみました(札幌高判平成元年1月26日。ちなみに第1審は今回の判決と同じように、致死までは認めなかったようです)。すると、今回の事案とは時間経過がそれなりに違っていることが分かります。

 判決要旨によると、今回の事件では、薬物の服用後、5時50分頃、被害者が錯乱状態に陥り(判決では、この数分後には被告人は救急を要請すべきだったとされています)、6時30分頃には被害者は意識障害の症状を示し、心肺停止に近い状態になったのです。その間、少なくとも30分はあり、速やかな通報がなされていれば救急隊員が心肺停止に至るまでに被害者に接することが可能とされたことから、それによる救命可能性が大きな争点となりました。

 一方、平成元年の事案では、高裁判決の事実認定によれば、0時30分頃に被害者が錯乱状態になり、2時15分に被告人が被害者を放置したままホテルの部屋を立ち去った時点では、痙攣を続けており未だ生存していたのは明らかでした。

 このように事案を比べてみると、被害者が救護を必要とする状態になってから死に至るまでの時間がそれなりに異なっていることが分かります。どちらの事案でも通報さえすれば救急隊員の迅速な到着が期待できたことや、救急救命の場面では時に分単位で生死が分かれうることを考えると、1時間以上の差は救命の可能性を検討するに当たって少なくとも一つの考慮要素にはなるのではないでしょうか。

 以上の個人的な感想はともかく、今回の判決はあらためて因果関係、とりわけ医学の専門家でも意見が分かれうるような救命可能性といったものを「合理的な疑いを入れない」程度まで立証することがどれほど難しいかを示した判決だと思います。今後この事件がどのような展開をたどるのかは分かりませんが、裁判員という一般市民が参加した上でこのような判決に至ったということは、あくまで致死罪の成立を立証しようとする検察側にとってはかなりの重みをもってくるような気がします。

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